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慎之介は薄く笑うと、勢いをつけて立ち上がった。猫の仔にどれだけ心を救われていたのか思い知らされ、自分でも驚いてしまったのだ。
「ふうが家に帰れて良かった。よろしく伝えておいてくれ」
「ふうに何も言わずに帰るのか」
「遊んでいるのを邪魔したくない。ふうが幸せなら、それでよい」
同じ色の猫たちとじゃれ合っているふうを、ちらと見やって慎之介は微笑んだ。ふうはもう化けない。ならば、これ以上、慎之介が関わり合いになるのは迷惑だろう。
化け猫は大きな体を、のっそりと起こし、枝折り戸まで見送ってくれた。
「お前さんには門戸を開いておいてやろう。また訪ねて来るとよい」
「そうさせてもらおう」
慎之介は振り返ることもせず、猫屋敷を後にした。
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