3章

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3章

 残念ながら、慎之介の危惧は的中した。翌朝は、姉が訪ねてきて悲鳴を上げる、という同じ事の繰り返しになってしまったのだ。 「そんな女、すぐにでも追い出しなさいっ!」  昨日よりも更に甲高い声で叫ぶ姉に、何のかのと言って帰ってもらうと、またふうに着物を着せて、髪を結うところから一日が始まる。 「そなた、勝手に俺の蒲団に潜り込んだな」と、慎之介が恨めしげな顔で咎めると、ふうはその身を縮めた。 「だって寒かったんですもの」 「仕方のない奴だな……よし、できた」  昨日よりも手際良く髷を結う事が出来た。ふうが終われば、今度は自分の分だ。慎之介は寝間着を着替えながら言った。 「ふう。今日の俺は一緒にいられぬ。務めがあるのだ」  これでも慎之介は北町奉行所の同心なのだ。事務作業ばかりの地味な仕事だが、これで扶持をもらって生活している以上、勝手には休めない。 「帰って来るまで、一人で待っておいてくれるか」 「あい」  ふうはこくんと頷いた。 「明日は休めるように頼んでくる。そうしたらそなたの家を探しに行こう。だから何も心配はいらぬ。握り飯も置いておくから、腹が減ったら食え」 「あい」     
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