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5章
翌朝、慎之介は久方ぶりに一人きりの床から目を覚ました。そして、部屋の外から恐る恐る中の様子を伺っていた姉を招き入れる。
「あの娘御は?」
「帰りましたよ。ようやく帰る家が見つかりましたので」
今まで散々ふうを追い出せと言っていたはずの姉は浮かない顔をしている。
「……良かったのですか」
「何をおっしゃいます。姉上が追い出せと言ったのではありませんか」
慎之介は笑ったが、姉は顔を曇らせたままだった。
「あの娘はともかく、やはり早く後添えを迎えるべきですよ。佳代殿も今のそなたを案じていましょうに」
「そうですね。そろそろ、前向きに考えます」
これまで決して首を縦に振らなかった慎之介の態度が一転したので、姉は弟をしげしげと見つめ直した。
「……なんだか、一皮剥けたような顔をして」
「まぁ、いろいろありましたので」
慎之介は柔らかい笑みを浮かべた。
そこへ誰かが訪ねてきた。応対に出た姉は、首をひねりながらすぐに戻ってくる。
「かような時間にどなたさまでしょうな。猫を連れた、身なりの立派なご老人が、そなたに会いたいと……」
慎之介は息を呑むと、一目散に玄関へ飛び出していた。
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