02 禍々しき光

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 眼下の惑星は錆びた鉄のように赤茶けている。荒野のみが拡がるかに見える表面上には僅かながら緑や青い色彩の領域が確認でき、かろうじて生命の存在をうかがわせた。だがそれは極めて狭量なものだ。  火星――24世紀初頭の姿だ。  火星の表面上より約20000kmの衛星軌道上に奇妙に揺れ動く泡粒のようなものが移動していた。その姿は儚気なものに見え、宇宙の闇の中に消え入りそうで、時に完全に消えてしまうこともあり実体を定めない。宇宙塵などが太陽光と相互作用を起こし、このような光景を作り出しているのだろうか? 正体を容易に悟らせない姿は或いは幻覚かと疑わせる。  だが、それは決して幻などではなかった。そして自然現象でもなかった。 「広域サーチ終了、火星表面での敵の姿は少ない。幾つかの群体の活動が見られるけど、あまり活発じゃないみたい」  女の声、一度 言葉を切り、少し息を継いでから再び続けた。 「人間の活動は殆ど見られない。マリネリスに集中した熱量の反応が見られるけどかなり絞られていて、しかも熱放射パターンを偽装しているみたい。自然放射と誤認させようとしているのかな? MELEによる探知を極力避けようというわけね。恐らく地下シェルターにでも退避して厳重なシールドの下で息を潜めているのか、或いはマリネリスはダミーとして既に他地域に避難をしたのか……」  球形の立体表示スクリーンが幾つも浮かぶ空間の真ん中で、長い真っ直ぐな金髪の女が浮遊していた。髪は束ねてはおらず、無重量環境の中でユラユラと揺れ拡がっている。 「火星もここまで追い詰められていたのか。もうまともに外に出られる状態じゃないのね」  沈んだ顔になる。しかし気を取り直そうとでも思ったのか、次の言葉には力強さすら表れていた。 「軌道上の方は静かなもの。敵は現状、皆無。取りあえず今のところフルステルスは効果を上げているみたいね。〈オケアノス〉は誰にも見えていない。我々は安全よ」  女が振り向いた、肌の白いほっそりとした顔立ちの白色人種(コーカソイド)の女だ。翠色の瞳が印象的だ。
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