01 紅蓮の街

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 アメーバ状のからだより幾つかの触手が新たに伸び出て来た。それらはウネウネとうごめきながら俺の方へと伸びて来る。一気に来ないのは警戒しているのか、或いは俺に恐怖でも抱かせてもてあそぼうとでもいうのか?   そんなものが狙いならば、それは決して果たされない。怒りの炎を焚きつけるだけだ。  ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなぁぁぁぁっ!  怒りは頂点に達し、脳髄を席巻する。己を喰らおうとする異形に対し、ぶつけてもぶつけても、幾ら撃ちつけても消えぬ憎悪の炎が燃え上がる。動けなくなっているせいか、よりいっそう激しく炎上した。  お前はそうして何もかも喰らい尽くすのか。そうして俺から大切なもの全てを奪い尽くすのか!  “大切なもの”――それは故郷であり、友であり、家族だ。この異形はその全てを奪い去ったのだ。  声は上がらない、最早上げられなくなっていた。だが怒りに満ちた眼は決して離さず、心の中で叫びを上げたのだ。  そんな俺の怒りなど委細構わず、微塵も届きもしないのだろう。異形は静かに触手を伸ばすのみだった。この世界とは全く由来の異なる存在だ。如何なる対話も叶わないということ。その思考も感覚も人類の理解が及ぶものではないのだ。  ただ触手の先にある眼が奇妙な感想を呼び起こす。つぶらにも見えるそれは、まるで幼子の瞳のよう。そんなものが不定形の異形の中にあるのだ。これを悪夢と言わずして何と言うのか? だからこそ怒りは尽きない、憎悪は果て無く燃え盛るのだ。  許さんぞ……、許さんぞぉぉぉっ!
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