01 紅蓮の街

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 突如として触手が突進を始めた。まるで俺の心中の叫びを察知したかのよう。いきなり弾かれるように高速で奔るそれは真っ直ぐに俺の喉元を貫いた。一気に叩き付けられた衝撃は、しかし痛みを齎さない。ただ息が詰まり、呼吸が完全に妨げられるのが分かった。それに従い意識が急速に薄れていった。  終わる、終わってしまう……ダメ……だ、まだダメ……だ……  それでも俺は叫ぶ、薄れる意識の中で叫ぶ。晴らせぬ怒りだけが俺を掻き立て、それが消えようとする命の炎を弾けさせ、迫りくる終末の暗黒に抗おうと足掻く。  くそっ、このまま……ただ喰われ……てしまっ……てたまる……もの……か……  怒りは消えない。だが、それでも限界は訪れる。俺は何もかも分からなくなり、遂に不明の際へと堕ちていった。  しかし――――  激しい爆発が起きた。いきなり爆風が叩きつけられ、俺は何mか吹き飛ばされてしまった。それは意識をはっきりとさせる効果を及ぼしたらしい。朦朧としつつあった意識は逆に明晰となり周囲の状況をつぶさに観察することができるようになった。  奴が砕け散っていた。俺の喉元を貫いていた部分も破壊され無数の欠片に砕かれていた。本体も同じ、跡形もなく散っていた。それはガラスか何かの破片のようなものに見えた。どちらかと言えば粘性たっぷりの流動体に見えたそれだったが、欠片となったせいなのか寧ろ硬質なガラスのようなものに転じていたのだ。  欠片が散乱する中央に深い穴ができていた。周囲を黒ずませているそれは爆発の跡だと知らせるものだ。それが奴を爆散させたのか?  右奥より金切り声のような金属音が鳴り響いて来た。すぐさま焔の中より黒い巨人が姿を現わす。全身を鋭角的な多重装甲に包んだ戦車のような姿をしている。しかし二対の手足を持つそれは直立した人型機械だった。  巨人は姿を現わすや、その内より人間の声が響く。俺に話しかけるものだった。 『無事か、少年! まだ息はあるか?』  声はキンキンと響いたので、耳どころか頭まで痛くなった。拡声器を通したものらしいが調整を誤っていたのだろう、鼓膜を必要以上に刺激したのだ。
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