01 紅蓮の街

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 聞こえてはいたが俺は何も反応することはなく、目の前の巨人を見上げるだけだった。いや、反応のしようがなかったのだ。喉を突かれたため――いや、それ以前に衰弱が酷かったので――声など上げられなかった。目や耳は――かろうじてだが――働いていたのだが、それだけ。口などきけず、いや呼吸すら(まま)ならず、ただ横たわるしかなかったのだ。 『ちっ、もうすぐレスキューが来るからな。死ぬんじゃないぞ!』  それだけ言って巨人は動き出す、もう話しかける気はないらしい。ゆっくりと歩みを始め、その重厚なる響きが身体に染み渡る。冷え切り、感覚の殆どを喪失していたのだがかの巨人の力感だけはありありと感じ取ることができた。  いわおのような背中が目に映る。それが人類世界最強の陸戦兵器だという知識を走らせた。  そうだ、俺は“これ”を知っている。  知識は巨人の正体を俺の意識に伝える。  戦闘甲殻(コンバットシェル)……パイロットの思考と感覚をダイレクトに反映させ動作する大型パワードスーツ。全高5mに及ぶ直立歩行機動戦車……  揺れ動き、消えかけていた意識の中で、その名は燦然とした輝きを放ち、眼前の巨人を讃えるかのように響いていた。  巨人の足元より爆発するように土砂が舞い上がった。唸りを上げる金切り声のような響きは天をもつんざかんばかりに高鳴る。そして僅かに身を屈めたと思うや、突如としてダッシュを始めた。猛然たる加速走行は焔の壁を破り、切り裂きさえした。そして炸裂する爆発音――巨人の駈ける後に無数のガラス片のようなものが飛び散るのが見えた。  攻撃を開始している。巨人の向かう先に数多の異形が見えるが、それが悉く巨人の疾駆の後に屠られていた。その余りにも圧倒的な力の行使に、俺は言葉もなく目を向けるだけだった。見惚れさえしたと言えるだろう。  死の際にあった俺の胸中には恍惚たる想いが流れていた。  戦闘甲殻(コンバットシェル)……力だ、圧倒的な力だ――――  狂おしいほどの焦がれを抱きつつ、俺は遂に暗黒の彼方へと堕ちていった――――
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