第3章 正しい情報のある場所。

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「二人は、なぜ我々が今も壁の中に暮らしているのか、考えたことがあるかい?」 父の突然の問いに、マキも私も何の話かと顔を見合わせる。 「壁の中に…?当たり前過ぎて考えたこともなかったな。」 「主な居住区が壁の中にあるから…じゃないの?外に街を作り直すのは、大変そうだし。」 私たちの言葉に父が頷く。 「500年前に魔物時代が終わって以降、壁を取り壊そうという意見は何度も出た。しかし、野生の魔獣も生息しているし、安全面でも壁はあった方が安心だと、結局取り壊されることなく今日まで来た。 人間は皆、生まれ育った場所が落ち着くものだ。 壁の中で生きることへの安心感が根付いているんだろう。」 壁の外にもいくつもの村があるが、人間か居住する場所は囲いで覆われて結界が張られている。規模の大小はあれ、囲いの中に暮らすのが当たり前だと思って来たから、壁の外に住むなんて発想すらなかった。 「しかし、本当に魔物の脅威がないのであれば、500年もの年月の間に、もっと人間の居住区に変化があっても良さそうなものだと思わないかい?」 確かに…。 魔人との諍いや上位魔獣の脅威のあった時代ならともかく、今は壁の外に出てもあまり不都合はなさそうだ。 …なんで、今でも人間は壁の中にいるんだろう。 私の疑問が顔に出ていたのか、父が薄く微笑んだ。 「当たり前すぎて疑問にも思わないように、気付かないうちに誘導されているんだよ。 教育の中に、壁の中に住むことが当たり前だという思想をさり気なく織り交ぜる。 壁の外に脅威はないはずなのに、なんとなく壁の外は不安だと思わせる。 私たちは知らず知らずのうちに、そう教育されているんだ。」
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