第1章 主役じゃない日々の始まり。

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「昔…魔法を使わないのに、座学のみでその理論を習得し、魔力を持つ人々に魔法を教えようとした無謀な若者が2人いました。」 少し、声のトーンが変わったスズキ先生に、伏せていた顔を上げる。 スズキ先生の顔は、今まで見た中で一番柔らかくて、どこか愛おしさを込めた表情だった。 内面を見せないスズキ先生の、初めて見る温かい表情に、何故だかどきりとする。 「1人の若者は、自身は魔法を使わないにも関わらず、魔法錬成で伸び悩んでいた者に魔力の練り方を指南し、見事大成させました。 もう1人は、魔法が扱えないにも関わらず、この学園の前身を立ち上げました。当時は学力に関係なく魔力を持てた時代ですから、思考力が伴わず、せっかくの魔力を使いこなせない者も多かったのです。そういった人々を救済したのが、この学園の前身です。」 ふと、スズキ先生の視線がこちらを向く。 その目があまりにも優しくて、でも何故だか淋しそうにも見えて。 なんだかどきりとした。 視線が交わったのはほんの一瞬で、すぐに教師の顔に戻って言葉を続ける。 「つまり、座学だけでも、魔法使いよりも深く魔法学を習得することは、十分に可能だということです。」 それってつまり。 魔法の錬成について、魔法を実際に扱う魔組よりも上に行ける可能性を示唆してるってこと? 「諦めずに、立ち向かいなさい。努力に勝るものはありません。 魔組と皆さんの間にある壁は、実はとても薄いのです。 残念ながら、皆さんは魔法使いにはなれません。 それは、確定している事実です。 しかし、魔法を正しく理解することは、魔法使いを使役する人間になる可能性を生みます。 普通の人間が魔力や魔法について深く理解することは危険だという思想が、この数百年のスタンダードでした。 しかし、スタンダードというのは移り変わるものです。 私は、優秀な人々にきちんと魔法を理解してもらいたいと思っています。」 そこまで言って、スズキ先生はクラスへ向けて微笑んだ。
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