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「ミサキ」
…トラン先輩だ。
すっごい数の女性を引き連れてくるんですけど。
なんですか。
あなた磁石ですか。
トラン=カトリの記憶を全て失ったトラン先輩は、無愛想で他人に興味を持たなかったあの頃が嘘のように、親しみやすい人になった。
以前は過去の記憶が人を遠ざけさせていたのだろう。
「なんだ?」
ぐおー。
このツーショット。
さっきスーミルから同人誌を受け取ったばかりなので、嬉しいような後ろめたいような複雑な気分にさせられる。
談笑する2人は、例えるなら太陽と月だ。
明るく周囲を照らすミサキ先輩。
以前はその冷たさとミステリアスな雰囲気を月に例えたけど、今は夜道を優しく照らすような柔らかさを持つトラン先輩。
「ごめん、向こうに友達集まってるみたいだから行くね」
「大丈夫ですよ」
気を遣って謝ってくれたミサキ先輩に微笑む。
その隣のトラン先輩も「ごめんね?」と申し訳なさそうな笑顔を向けてくれたが、それも一瞬のことで、すぐにミサキ先輩と連れ立って離れていった。
大量の女子を引き連れて。
トラン=カトリの記憶を失った先輩は、サイの記憶も失った。
私の召喚体だった“サイ”のことは覚えているものの、私の召喚体であるというだけの、至極あっさりとした記憶である。
過去のサイを忘れた先輩は、もう私を特別扱いしなくなっていて。
私にだけ笑いかけてくれたあの頃の先輩が、ちょっとだけ恋しかったりもする。
別に、変な意味じゃなく。
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