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暗闇ではっきりとはしないが、それは、狼のような顔をして、身体のあちこちに、銀色に光る防具のようなものを付けている。
「いい子だから、おうちに帰ろう」
彼女の言葉に安心したのか、獣は唸るのをやめ、穏やかに目を閉じた。身体を覆っていた武具と、獣の毛がすぅーっと身体の中に吸い込まれるように消え去り、獣だった個体は若い人間の男になった。
男は力が抜け、ぐったりした身体を彼女に預けた。自分よりも重い、彼の全体重が、華奢な女の身体にどっしりとのしかかる。
「馬鹿……、ここまでして、『野獣』になりきらなくったって、いいんだよ……。人間に、戻れなくなるよ……?」
今にも泣き出しそうな、か細い声に答えるように、男は優しく、彼女を抱きしめた。互いのぬくもりが、心を癒していく。
「ゴメン……、澪。また、やっちゃったのか……」
「魁、あんたの仕事は殺すところまででしょ? 肉は食べなくていいの。また柳澤の奴になんか言われるよ?」
「……だな」
男の口の中に、まだ、血の味が残っていた。
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