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僕は姫夾。
その字面から、仲間内には「姫」と呼ばれている。不服ではあるが。
小柄で、背も彼女よりも指一本分くらい高いだけで、男としては低い。腕っぷしだって弱いし、戦いの続く中、戦場に出たところで、ただの足手まといでしかないのも、よく解ってる。
僕よりも年少の双子にも、力も戦歴も劣るのだから情けない。
顔だってお世辞にも男らしいとは言えない。
咲良だって女顔だが、彼は『優男』で、僕は『女の子みたい』だと言われる。長い金髪を一つに括る咲良は、僕よりも頭一つ分―――と、少し――――身長が高い。
たったひとつ、誰よりも優れているのは、足の速さだけ。
逃げ足の速さだけ。
「ああ、情けない」
そう鏡を覗き込んで、自分の姿に誇らしげに笑う。
窓の外からは、悲鳴の入り混じった戦の音が、近く響いてくる。
たったひとつ、この国の人たちが守り続けていた城が、守りの要が、生活の拠点が、いよいよ攻め落とされようとしているのだ。
僕の使命は、皇子と少女を城から無事に脱出させること。
二人の皇子と、少女が、逃げ切るだけの時間を稼ぐこと。そして少女を死なせないこと。
鏡に映る自分の姿に、満足げに頷く。
丸く大きな茶色い瞳。目にかかるほど伸びた、栗色の髪。そして、真っ白いドレス。
少女と瓜二つのこの姿で、僕はこれから戦場を駆け抜ける。
「絶対に守って見せるよ、歌乃」
このために僕は在る。
弱い僕が、彼女を守るために。
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