おみおつけ

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 戸棚の上で微笑みを浮かべる夫の写真をぼんやりと眺め、誘われる様にふらりと台所に立ち鍋を火にかける。  夫は味にうるさく、且つ餅は餅屋精神で、良く二人で商店街を練り歩いては、夫が気に入る物を日が暮れるまで探し回った。  その時見付けた馴染みの乾物屋から買った昆布の表面を軽く拭いてから、そっと鍋に沈める。  ふつふつと鳴く鍋の中で徐々に肉厚になっていく昆布を眺めているのは、孫の成長を見守る様で好きだ。孫と昆布を一緒くたにするのもどうかと思うが、本当の事だ仕方が無い。  結婚当時、近くの商店街で夫の口にあう味噌や醤油が見付かって本当に良かった。  通信販売・お取り寄せなんか考えもし無かった当時、近くで見付からない様なら自分で作るか、口に合わないまま我慢して貰うしか無かった。  それでも、一升樽で買った味噌を自宅の納戸で一年寝かせてからではないと夫は満足せず、毎回、味噌を買い足す時期を推し量るのは至難の業だった。  鍋の灰汁を取り良い塩梅になったら昆布を取り出し、火を弱め鰹節を一掴み入れる。  再び灰汁を取り、別の鍋に蒸し布を被せそこにあけ、ゆっくりと漉して出汁は完了。  胡乱な話だが、ここで搾ると雑味が出ると言う夫の持論を尊重し、いつも搾らず自重に任せている。     
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