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「どうかしましたか?」
「いえ、知り合いがいたような……気がして」
「そうですか。あ、私、花菱デザイン事務所の鎌田汐と申します」
彼女は胸元から名刺ケースを取り出すと、名乗りながら名刺をくれた。私はとりあえず受け取る。
「もしよかったら、そこにあるアドレスにご連絡ください」
「……え?」
「ぶつかったお詫び、今度させてください」
鎌田さんは人懐っこそうな笑顔を浮かべる。だが私にはそれが企む悪女の笑顔にしか見えなかった。あのときと一緒だ。
見た目がよければとりあえず声をかけ、親しくなったところでお金を盗むあの女―今はもう刑務所にいるが―と一緒。
「そういうの、いいです」
なるべく機嫌を損ねないように、丁寧にいって名刺を返そうとしたが彼女はすでにケースをしまっていて私の言うことは聞いていないようだった。
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