10. 自覚するには遅すぎて

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「また会えましたね!」 「また会えた、っていうか……」 店員さんは困ったように笑っている。当たり前だ、彼からすればよく分からない状況だろうから。彼はあたしの持つ袋に気がついたようだった。 「あ、今日も来てくれたんですね」 その何気ない言葉に、汐の目の色が変わってしまった。 「今日も? ……そっか、近いもんね?」 汐があたしをみる。どんな顔かは分からない。怖くて見れない。 「え、あ……う、うん……」 「そう……、あなたは陽ちゃんのことは覚えてるんだ」 汐はあたしを見ながらチラチラと店員さんを眺める。自然と袋を持つ手に力が入った。 「常連さんですから」 店員さんはやんわりとあたしをかばうようになだめる。 「ふーん。私のことも覚えてくださいよ」 「……物覚えが悪くてもよければ」 きっと、その答えがベストだった。 けれど、あたしにとっては嫌な答えだった。
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