Case book.1-1:或る女との再会

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「クラーク刑事殺害の容疑でも引っ被って貰え。記録媒体を回収したら、その場で始末していい」 『分かりました』 「急げよ。以後、全部コトが終わるまで定時連絡は要らない。次の連絡では成功の報告だけを聞かせろ。以上だ」  言うだけ言ってしまうと、男は相手の返事も聞かずに通話を切った。 「始末できなかったのか」  背後から掛かった声に、男は振り向くことをしなかった。振り向かずとも、誰がいるのかは分かっている。 「今のところはな。だが、近い内に全てカタが着く」 「そう願うね。こっちの決着が付くまでウチも人身売買の方は暫く休業だからな」  相手が立ち上がる気配を感じて、それまで電話をしていた男は、背後に視線を向けた。  そこに立っているのは、全身黒ずくめで長身の、やはり男だ。  うなじを覆う程度の長さのある漆黒の髪はオールバックで、うなじより高い位置で括ってある。面長の輪郭に長い鼻梁とやや長めの唇がバランスよく配置された容貌だが、目元はいつも長方形に近いサングラスに隠されていた。  その彼が、今日身に着けているのは、ハイネックのトレーナーとジーンズというラフな出で立ちだが、そのどちらも黒だった。 「おれも、さっきのあんたの言葉を復唱させて貰うよ」 「何?」 「次の連絡では全部穏便に片付いたって報告だけが聞きたいね」  じゃあ、と言って踵を返すと、黒い男はヒラリと軽く手を振って、薄暗い部屋を辞した。
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