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息が上がる。
足下が急に不安定になって、リタはすぐ傍の壁に縋るように凭れ掛かった。その拍子に、地面にパタパタという乾いた音を立てて散らばったのは、赤黒い水滴。
胸の奥からせり上がる何かに押されて咳き込む。反射で口元を押さえた掌には、やはり赤黒い液体がべっとりと付着していた。
また随分と考えられないヘマをしてしまったものだ。唇の端が自嘲気味にうっすらと微笑の形を刻むが、それを見る者はいない。
身体が、ずっしりと重かった。
水でもたっぷり吸ったようで、このままくずおれてしまいたい疲労を感じていたが、一度地面へ崩れたが最後、二度と起き上がれないだろうことはよく解っていた。
腹部と胸部に喰らってしまった弾丸に開けられた穴が、急速に命の灯火を燃え尽きさせようと、血液をせっせと体外に送り出している。そこだけではなく、弾丸は身体の至る所を掠めていたので、痛みの在処(ありか)は特定できない。
もう、痛いのか痛くないのか、それすらリタには認識できなくなっていた。
(……まだ、死ねない)
自らに言い聞かせるように脳裏で呟いて、開いていた掌をグッと握り締める。
見下ろす拳を含めた視界は、まるで夕闇に溶けたように薄暗い。
それもその筈で、とっくに気を失っても不思議ではないほどの血液が流れている。その所為で目が霞み始めているのだ。
(それでも、行かなくちゃ)
止まってしまった足を叱り飛ばし、リタは一歩、また一歩と、歩いているのかいないのかも判別できないほどの鈍い動作で前への歩みを再開する。
その後ろには、あたかも彼女の足跡であるかのように血の道筋が、赤黒く点々と続いていた。
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