Case book.1-3:追う者、追われる者

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「……そうですね。三十分ばかり前にリヴァーモア支部最寄りの駅を出たところなので、明日の未明には……」  耳に当てた端末を床へ叩き付けたい衝動を苦労して堪え、罵倒を呑み込む。 『そうか。では、次の駅で降り給え。私がリヴァーモア支部からヘリを出してくれるよう指示を出しておく。どこで君を拾うかはまた連絡するから、それまで待つように』 「分かりました」  通話を切ると、途端にまた端末を叩き付けたい誘惑に駆られるが、これがなくなったら、ティオゲネスが自分に連絡を取る手段がなくなる、と思い留まる。 (どうする)  言う通りにすれば、ティオゲネスとその連れの少女が州境に辿り着くよりも先に州境へ着けるだろう。だが、問題はその後だ。  ヘリコプターには恐らく応援が乗っている。ヒューンという刑事に言いくるめられたリヴァーモア支部の者が。  もしこれが普通の極悪な指名手配犯を捕獲するミッションなら、自分のような平刑事が支部の代表となる道理がない。  ヒューンとやらの言い分は、ラッセル個人としては全く信じていない。先にティオゲネス本人と話したから、というより、彼の人柄を信用しているのだ。  自分と同じように不遇の幼少期を過ごした少年。自分もかなり『やんちゃ』な方だったが、あの少年は大人の犯罪者も顔負けの経験をしている。あの年でだ。それも自らが選んだことではなく、無理矢理そういう道を歩かざるを得ないように仕向けられて。  彼だけではなく、あの組織にいた全員がそうだ。置かれた環境の中で、必死に生きようともがいていただけ。それが、良いか悪いかなんて、考える余裕も知識もなかったのだ。  ようやく『普通』と言われる生活にも慣れて来た頃だというのに。きっと彼は、何が何だか分からない内に事件に巻き込まれたに相違ない。 (早く……早く、もう一度連絡をくれ)  祈るように端末を見つめても、着信を知らせる震えは起きなかった。  次の駅に着くまでに、何か――どうにか妙案を考えねばならない。  焦る気持ちに追い打ちを掛けるように、その数分後にメリンダから届いた情報は、ヒューン刑事の話と寸分違わぬ内容だった。それは即ち、既にティオゲネスが、リタ殺害の犯人としてCUIO内に認知されたことを意味していた。
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