Case book.1-4:車上の駆け引き

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 プロプスト・シティから、CUIO本部のあるメストルまではかなり距離がある。途中宿を取らずに移動しようと思ったら、必然的に宿泊施設のある列車に乗るしかなかった。  客船と同じで、列車も宿泊する部屋にランク分けがされている。  一等・二等客室は個室で、二等でもまともに横になる寝台があるが、三等は普通の列車の席が並んだ車両と造りは変わらない。寝る時間になってもプライバシーは筒抜けで、消灯時刻を過ぎると一斉に、眠りを妨げない程度に明かりが落とされる。その代わり、乗車料金は一番安い。  しかし、ネットカフェから出た時のティオゲネス達の所持金は、百四・二グロス少々。三等客車に乗っても、二人ではとてもメストルまで辿り着ける額ではなかった。  だが、とにかくメストルに少しでも近いところまで行こうと、ティオゲネスは州境の駅までの料金を支払って列車に乗り込むことを選択した。それでようやくギリギリだった。しかも、それは列車に乗るだけの料金であって、食費は含まれない。  ティオゲネスは、組織にいた頃の経験上、空腹もある程度我慢できなくもないが(銃の訓練過程で、百発百中達成できるまで食事抜き、などということがよくあったからだ)、エレンは先ほどから口を開けば「お腹空いたー」とこぼしている。  自分一人なら、ヒッチハイクでもカージャックでも何でもするのだが、エレンが一緒となると、できるだけ騒動を起こすことなく進みたかった。だからこそ、わざわざ無理をしてまで正規の乗車賃を支払ったのだ。 (何事もなければ、明日の朝には州境……か)  けれど、それはかなり難しいであろうことも分かっている。  何事もなく着けば、それに越したことはない。  しかし、ティオゲネスには、そもそもリタが何者に追われていたのかさえ分かっていないのだ。それは即ち、自分達が誰に追われているか分かっていないことを意味している。  追手の情報もなく、ただ闇雲に逃げている今の状況は、ぼんやりと自分について来ているエレンはともかく、ティオゲネスには相当な精神的負荷を伴うものだった。
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