Case book.1-4:車上の駆け引き

3/12
68人が本棚に入れています
本棚に追加
/701ページ
 もう少しリタに時間が残されていれば、と思うが、思っても始まらない。 (そう言えば……)  ティオゲネスは、ふと、リタが息を引き取る間際に口走っていたことを思い出す。 (『ガーティン支部は、もうダメ』……『その両隣の州の支部も』……?)  CUIO本部へ行けと言っていたところをみると、ガーティン支部とは文字通りCUIOのガーティン支部のことだろう。 (もうダメってコトは、宛にならないってコトか?)  否、『宛にならない』というより、『宛にしてはならない』という意味であろうか。  ティオゲネスは、僅かな手掛かりから肝心なことを掴もうと、必死になって頭を巡らせる。  『その両隣の支部も』――宛にしてはならない、と続く筈だったのだとしたら―― (相手は……CUIOなのか?)  しくじった――かも知れない。ラッセルに連絡を取ったのは、もしかしたら。  ティオゲネスは、盛大に舌打ちしたい気持ちで、辛うじて実際に行動に起こすのは思い留まった。  ガーティンとその両隣の州の所轄である、リヴァーモア支部とギールグット支部がグルになって何かをしでかした。リタは、その犯罪に関する何かを知っていた。恐らく、例のUSBメモリの中身だ。  強姦の現行犯。あれが、もしもCUIO職員の中の誰かだとしたら、揉み消そうと必死になるのも頷ける。  テキストデータの中身だけは何なのかは分からないが、強姦犯がCUIO職員だと仮定すると、画像データだけでもCUIOの権威を失墜させるには充分すぎる。  そして、もし、リタを追っていた相手が標的を自分達に切り換えたとしたら、もう秘密裏に処理する必要はない。追っている相手がリタなら、彼女もCUIO職員だから公にできないかも知れないが、ティオゲネス達は外部の人間だ。  適当に要指名手配の犯罪者に仕立て上げて内部の人間を言いくるめ、捜査網を張れば万事完了である。  場合によっては、事情を知らない一般人さえ抱き込める。『凶悪犯逮捕にご協力を』などと言いながら、自分達の写真でも配る様が目に浮かんで、ティオゲネスは額を押さえた。頭痛を覚えたのだが、それこそ暢気に頭を抱えている場合でもない。
/701ページ

最初のコメントを投稿しよう!