オルゴール

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「さて、諸君。おはよう。今日も仕事を始めようか。」 工房の主人のポールの声が響く。 3人の青年がそれぞれあくびをしたり、伸びをしたりしながら持ち場につく。 この街はオルゴールが有名で、それぞれの工房の特色を出したオルゴールが市場にならび、世界中へ出回る。 宝石をあしらったもの、複雑な音色がなるもの、精巧な細工のもの。 オルゴールは手軽に音楽が持ち運べる。だからオペラやコンサートにいけない市民の心の拠り所となっているオルゴール作りに職人は誇りを持って取り組んでいた。 「やぁ、アンディ、今日の調子はどうかな?」 「ありがとございます、ポールさん。万全ですよ。」 声をかけられたアンディはポールの工房で細工を担当していた。ポールの工房のオルゴールはアンディの細工を支える、働く二人の青年、パドックとアンカーの美しく、精巧なデザインが売りだった。 パドックのデザインをアンディが掘り出し、アンカーが色をあわせ、音をはめこむ。 「パドック、今回はこんなのを考えたんだ、できるかい?」 「俺を誰だと思ってる?ポールの工房のパドックだぜ。」 誇らしげにアンディへウインクしてみせるパドック。 「また今回も素敵だね、きっとよく売れるよ。」 横から覗き込むアンカー。 三人はとても仲がよく、息がピッタリとあった。 「お疲れ様、今日はここまでにしよう。」 ポールが伸びをして三人を見回す。 「それから、みんなに話があるんだ。」 ポールの神妙な顔つきに三人は顔を見合わせる。 アンディには嫌な予感があった。そしてそれは的中することになる。 「実は、君たちを解雇することにしたよ。」 突然の言葉に声も出なくなる三人。 最初に口を開いたのはパドックだった。 「なんでだよ、ポールさん!」 アンカーもそれに続く。 「そうだよ、三人解雇して、一体どうするってんだよ!まさか、工房をたたむんじゃ…」 「工房はたたまないよ。大陸から機械を買ったんだ。一人で三人分の仕事をしてくれる。休憩もいらなければ、給料もいらない。怪我もしない。指示されたことしかしないから無駄がない。 どうだ!素晴らしいだろう。大陸は機械を使い始めているらしいが、ここらじゃ機械が作ったオルゴールなんて珍しいからな、飛ぶように売れるぞ。」 ポールの嬉しそうな声に三人は肩を落とす。どうしていいか、これからを考えるのに必死で誰も言葉をかけられなかった。
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