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アンディはさっきとは別の事で頭をいっぱいにしてぼんやりと坂を登っていった。
帰宅し、ベットに入ってもさっきの女の人が浮かんでくる。表情こそ乏しく、決して愛想のある人だとは言えなかったが素敵な女性だった。そんなことを考えながらゆっくりと目をとじるのだった。
朝。
行く宛もなくなってしまったアンディは通りをふらふらしていた。
街のあちこちからオルゴールの音が響く。
昨日まであんなに心が踊ったオルゴールの音がなんだか陰鬱な気分にさせる。
はぁ、と力なくため息を付いた時ふと昨日の女性が頭に浮かんだ。
あの人はどこの人なのだろう。
買い付けにきたのなら、僕が細工を施した僕のオルゴールを買っていってもらいたかった。けれどそれはもう叶わない。
アンディとしても他の工房に雇ってもらうことももちろん考えたが、各工房にはそれぞれの曲調が違う分、工房によって施される細工に違いがあった。
花を得意とするアンディがポール以外のところで十二分に才能を発揮できるかと言われたら自信はなかったのだ。
重たい足取りはいつの間にか3人が決まって集まるいつもの酒場に向かっていた。
「おい、アンディ!」
はっと顔を上げるとふたりがいた。
「お前も落ち込んでここに来たんだろ?」
尋ねるアンカーに肩を組み、パドックが酒で顔を真っ赤にして続けた。
「俺もさ、ここに来たらこいつが先にいたのよ!お前も今日だけは飲もうぜ。」
ニヤニヤしている二人をまえに落ち込んだ顔はしていられなかった。
「今日だけって…昨日も飲んだじゃないか」
それから三人は今日一日どうすごしたか、明日からどうするつもりかを話し合った。何も気にしていないような素振りをしていてもここの誰もがどうしようもなく落ち込み、不安でいることはお互いにわかったが口に出す人は居なかった。なるべく明るい話題を慎重に選んでいるようだった。
アンディはふと彼女の事を話してみようと思い立った。
「実は昨日、きれいな女の人にあったんだ。」
二人がアンディをみる。
「不思議な雰囲気の人だった。まるで僕らと違ってるんだ。人形が動き出したような。ほんとに美しかった。たぶんここの人じゃない。」
二人は顔を見合わせると、にやりと笑った
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