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日も落ちかけ、辺りが蜜を垂らしたような黄金色に染まってきた頃。
黄色い土の広場では先程まで大きな人集りが出来ていた場所にも少しずつ隙間が目立ち始めた。
それでもまだ残る人の輪の中には1人の“道化師”が身軽に動き、観客を楽しませている。
道化師と呼ぶには随分とラフな格好をし、不思議な半面をつけたその男は、名をイヴといった。
芸を披露しながら放浪しているイヴは、今日この国に到着したものの、初日から調子は上々である。
ふいに、イヴはまばらになり始めた観客の隙間から、こちらに向かってくる男を見つけた。
男は脇に抱えるには少し大きい包みを抱え込み、通行人を押しのけながら走り来る。
包みを持っていない方の手には、小型のナイフが握られている。
「待て!そこの太ったヒゲ!うちの売上を返せ!」
遠くから、、、男の走ってきている方向からは訛りのある怒声が聞こえ目を凝らすと、声の主は黒い髪に黄がかった肌の、一目で明らかにこの国でない遠いところから来たとわかる姿をしている。
イヴはその意味を理解した時、考えるよりも先にちょうど次の芸のために持っていたナイフの1本を、男の足元に向かって投げつけた。
踏み出しかけた足の先の土に、いきなり見覚えのないナイフが突き刺さった驚きで男は前につんのめった。
そこへナイフを投げた流れで駆け出したイヴがたどり着き、男の後ろへ回る。
ナイフを持った方の男の腕を後ろからひねり上げたところで、2人の目の前に黒ずくめの衣に身を包んだ細身の男が現れた。
包みの持ち主の仲間と思われ、同じような黒い髪は前髪が長く、目が隠れかけている。
「、、、助かったよ、道化師サン。後は俺に任せてくれないか。」
にやっと笑って言う黒ずくめの男にも、怒声の主程ではないが訛りが見える。
イヴも、口元だけでにやりと笑いひねり上げた男の腕をぱっと手放すと同時に、黒ずくめが男を押さえ込んだ。
その後、男のことは黒ずくめに任せイヴはナイフを回収後、人の輪の中に戻り芸の続きを披露した。
戻った時、人々から拍手と歓声が上がったが、イヴはそれを受け流すように口元に笑みを貼り付けているだけだった。
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