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有栖さんの画廊はプライマリー・ギャラリーである。作家は同時代に生きていて、直接言葉を交わすこともできる。画商はそのマネージャーのようなものだ。今後有名になり、売れるためにどんな作品を作っていかなければならないか、今日の芸術界を俯瞰しながらその方向性をアドバイスし、彼らの代わりに作品を売り込んでいく仕事。――有栖さんは言う。『画商とはアーティストの隣を並走する者のことだ』と。
閑話休題。
有栖さんの画廊は在庫を持たない。代わりに“目録”を彼女のAugmentedEyesに配信する。
彼女はまるで目の前にそれがあるかのように、虚空に視線を彷徨わせる。実は今、彼女には実際の作品が見えていてそこにある。目録へのアクセス権を共有しているわたしにもだ。額に入った三次元の絵画。だがそれは幻の絵画だ。触れることはできないし、実在もしない。脳の視覚野への電気刺激が生み出す、補現実の虚像だ。
ちなみに有栖さんには見えていない。オーグはSmartTagの拡張機能の一つだからだ。だが電子データではあるので、容量を落としたものをタブレットに表示して確認することはできる。
その作品はF6サイズのアートボードに描かれた電子絵画だった。
同時代絵画の特徴は、もはやキャンバスに油絵の具で描かれた絵ではないということだ。
技術が変われば、芸術の表現媒体も変わる。
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