1.落ちる揺り籠

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1.落ちる揺り籠

『ウーシャは実際に自分が何を思い出そうとしているのか自覚はなかったし、チップが何を検索したのかも知らなかった。けれど、まったく気にならない。今や、ウーシャはその部屋でもっとも博識な人物であり、大事なのはそれだけだからだ。』――100の思考実験 76 ネット頭脳 ジュリアン・バジーニ 著 1 # -*- coding: utf-8 -*- # Thou shalt love thy neighbor. # Her name is KIRI. _  ――分かっていたんだ。  わたしたちの旅は始まったときから終わっていたということ。 「――美術館というのは、記憶の殿堂なんだ」  彼は、今世紀何度目かになるその口癖を切り出した。 「ミュージアムという言葉の語源は、ムネモシュネ――九人の美神(ミューズ)を設けた記憶の女神を祀った神殿の名、ムセイオンに由来する」 「その話聞くの百三十三回目です」わたしはたまらず口を挟む。 「そうだっけ」  木目柄の展示室の床に散乱した、窓の硝子片を踏み抜きそうになりながら、 「俺は君みたいに記憶力が良くないから」 「嫌味ですか?」 「褒めてるんだよ」  ――一言で言えば、そこは廃墟だった。     
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