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「人気絶頂の最中に俺が仕事まで引退したのは、あんたの為だ」
「知ってる」
「なのに、まだ信じないの?」
「お前は弟が一番だと思ってた……」
学生時代の軽いノリでした相談が、未だにこの男の中には残っているらしい。
確かに弟の理楽の事でゲイを自覚したし、そこから逃げる様にして家を出て来た。
あの感情が嘘だったとは言い難いけれど、今思えば青い春の苦い思い出と言える。
「心中と無理心中の違いくらい、もう俺にだって分かるよ……」
「……お前、それ……覚えてたんだな」
二十歳を過ぎて事務所で千瑛と知り合い、赤尾家の過去の話を知るまでは、この言葉の意味が分からなかった。
同じ想いで死ぬのが心中なら、独りよがりで自分勝手に巻き込むのが無理心中だ。
結局の所、物事の根本はここにある。
恋愛は相手が望んでいるかどうかが琴線を分かつのだ。
「俺はあんたにどうしてもってせがまれたら……付いて行くと思う……よ?」
どうしてかなんて理由は分からないけど、もしもの話でも心中出来るのは多分この男だけだ。
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