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「……婚姻届……?」
「いや待て、オッサン。俺だって、日本の法律で俺らが結婚出来ない事位は分かってんだよ! 誤解すんなよ?」
「だったら何でこんなもん貰って……」
「証人の所には……俺は理楽に書いて貰う。こんな紙切れじゃ、何の証明にならないかもしんねぇけどさ……」
「俺が不安にならない様に、証文にして残してやろうってのか?」
「そ、そんな上から目線で言ってんじゃねぇよ……。俺だって、あんたに嫌われたくねぇんだよ……。俺がAV出てたって過去はどうやっても消えないし、弟の理楽を好きだったことも嘘にはならない。でも、今からは違うって……証明したいだけ……」
我ながら馬鹿げていると分かっちゃいる。
法的に無効な婚姻届を書いたって、何の意味もない。
それでも、今路は帰って来る飛行機の中でずっと考えていた。
愛する事ばかり上手くなった初めての彼氏に、愛される事を覚えて欲しい。
「あんた意外とこう言うの好きだろ?」
「バッカ……だな、数学者ってのはロマンチストだと相場は決まってんだよ」
俯いて、細い片手で顔を覆った千歳の声は、微妙に震えている。
見た事なかった泣き顔は、意外と情けなくて、愛おしい。
「今路、書いたらこれ、額に入れて部屋に飾ろうか」
「……それはゴメン、羞恥死にするからヤメテ」
「後追ってやるから、心配すんな」
「まずは一緒に生きる事考えろよ、オッサン。幸せにしてやっから、覚悟しろ」
汝、病める時も健やかなる時も、これを愛し、これを敬い、死が二人を分かつまで愛し、慈しむ事を、たった二人で誓い合う――――。
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