あなたを、じっくり、しあわせにすること。

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 少し前からお付き合いを始めた生まれて初めての彼氏は、最後の仕事がサイパンに決まったと伝えた時、その間に今路の家へと引っ越すと言った。  手伝うと言った今路に「帰って来てからだと一日遅れてしまう」と眉間に皺を寄せていた事を思い出す。  これは一日でも早くお前に会いたいと言う素敵な科白では無い。  単に効率良く、且つスムーズに引っ越す為の合理的見解だ。  三十二歳、独身、職業は数学教師。名前は赤尾千歳(あかおちとせ)。    あっ……んっ……やぁあ……。  玄関を開けるとリビングから喘ぎ声が聞える。  浮気を疑うなんてあり得ない。何故なら千歳は常識を引っ繰り返す男だからだ。  喘ぎ声が聞えて来て浮気、なんて当たり前な展開が待っているわけがない。 「……オッサン、何してんの?」  リビングのソファでは千歳がつまらなさそうに今路が出演しているゲイビを垂れ流している。 「あぁいや、こうすればお前に会いたい気持ちが増幅された上、独占欲を煽られて、滾るかと思ったんだが……」 「真顔でナニ言ってんの? ソレ、そういう顔で見るもんじゃねぇからな?」 「他の男に抱かれているお前を見るのは、存外につまらん」  そう言われて今路は、仏頂面で溜息さえ吐きそうな千歳の下半身を見遣る。 「しかもオッサンの息子、ガン無視じゃねぇか」 「もっとこうイラッと来て、お前が帰って来たら押し倒す位の勢いがつくかと思ったんだがなぁ……意外と萎えたわ」 「どっから突っ込めばいいか分からんボケかますな」  この男、これで昼間はクソ真面目な高校教師をやっている。
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