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元々教え子だった今路は、高校の頃から千歳を知っていた。
地味でパッとしない割には生徒に人気で、無表情で訳の分からん事を言うのが箸が転がっても面白い思春期のガキにはツボだったのかも知れない。
今路はこの何があっても動じない様な賺した教師を困らせてみたくなって、自分はゲイの上弟が好きなのだがどうしたらいいか、といたいけな生徒の振りをして相談を持ちかけた。
少し揶揄ってみたい衝動もあった。
そしてこの堅物は「理解出来ん」とか「あり得ない」と無表情で返して来るのだろうと思ったが、意外な科白を吐いたのだ。
心中と無理心中の違いが分かってれば、大丈夫だ――――。
当時の今路にはその言葉の意味がよく分かってなかったが、その時初めてこの男が笑う所を間近で見た。
多分、その時からこの男に惹かれていたのだろう。
「おかえり、今路」
「た……ただいま」
ちょいちょいと人差し指で呼ばれて近づくと、腰に長い腕を回して来る。
目つきは悪いし、体はヒョロイし、いっつも疲れた感じの顔をしているのに、その声で名前を呼ばれるだけで今路の心拍数は跳ね上がる。
「これでやっと俺だけのもんだな」
「ははっ、社長から散々嫌味言われたし、千幸さんにも散々弄られたぞ」
千歳には弟が二人いる。
次男の千幸は今路が所属していた事務所の社長秘書(多分、嫁)をしている。
何の因果か今路を拾ったのはこの千幸で、所属した事務所には三男の千瑛がいた。
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