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あなたを、じっくり、しあわせにすること。
マリアナブルーが視界一面に広がるサイパンで撮影を終えて飛行機で三時間半。
特別な日だから早く帰って来いと言われちゃいたが、飛行機の中で思い付いた事があり、少し寄り道して帰って来た。
古川今路は自宅玄関を開ける前に僅かに乱れる呼吸を整える。
ゲイだと自覚して早十年。
高校卒業と共に親にカミングアウトして実家を飛び出し、発展場で声を掛けられた人の良さそうなお兄さんに付いて行ったらいつの間にかAV男優になって、人気沸騰中の二十五歳。
引退試合は社長の計らいで海外で拉致監禁3P仕様。
掘られまくって、唇がかっぴかぴの梅干しみたいになるまで尺って、無事日本に帰還したのだが――――。
「……彼氏とか……はずっ……」
中学の頃、双子の弟を家族のそれとは違う感情で見ている気がして、高校に入るとそれは確信に変わる。
同性愛の上、近親相姦なんて事になったら親が首を括って死ぬかもしれない。
当時本気でそんな事を思っていた今路は、若い体と幼い心には重たいその荷物を持て余し、自分から逃げ出した。
今路の思春期は我を忘れるほどの淫欲に塗り潰され、恋や愛と言う戯言が存在しない世界を上手に泳げるようになる頃には“ゲイポルノ界の女王”なんて呼ばれ始めた。
黒か白か、グレーが存在しないハッキリとした性格もあり、音速の如くあっという間に汚れた大人へと成り果てたが、この恋はもうその頃から始まっていたのだ。
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