俺と彼女のすれ違い

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 会議を終え、アポを取っている客先に向かおうとした俺はエントランスで足を止めた。  正面玄関の真ん前に高級外車を停め、後部座席から黒澤専務が降りて来たのだ。  俺とそう歳も変わらないはずだが、自分の親ほどの年齢の部下を引き連れて歩く姿はまるで大名行列だ。「一成様のおなーりー」ってか。  出迎えているうちのお偉方もいつになく腰が低い。それもそうだろう。この若造の決定ひとつでクビが飛ぶかもしれないのだから。  見た目は、いかにも遊び人でお金持ちのボンボンという印象だが、なかなかの切れ者だという噂は耳にしている。  にこやかに歩く一成様(・・・)を横目に、これからうちの会社はどうなってしまうんだろうという一抹の不安を覚えた。
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