俺と彼女のすれ違い

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 マンションのそばまで行くと、案の定、くるみは玄関の外に出て、手すりから身を乗り出して外を見ていた。その姿は本当にハチ公みたいで、堪らなく可愛かった。  見つからないように、そっとマンションに入り、くるみの部屋がある階まで行った。 「湯冷めするよ」  まだ髪だって濡れたままなのに。 「え!稜サン、いつの間に?」  声をかけると彼女はひどく驚いていたが、すぐに満面の笑みを浮かべた。 「遅くまでお疲れさまです」 「今日はまだ早い方だけどね」 「そっか。そうだよね」  納得したように言うと、彼女は目を逸らして静かに微笑んだ。  急に俺が来たもんだから、どうしたらいいのか困っているようだった。
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