俺と彼女のすれ違い

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「あ。ご飯は?もう食べた?」 「いや、まだ」 「大したものはできないけど、よかったら何か作ろうか?」  ありがたい申し出に、一瞬で明日の予定を脳内で確認した。明日は名古屋に行かなければいけないが、約束は昼からなので確か十時頃の新幹線だったはず。早朝でもないし、大丈夫か。 「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて」  返事を聞くまで不安そうな顔をしていたが、くるみはすぐに笑顔になった。  仕事で交渉する相手は、笑顔で嘘をつくし平気で裏切るし、一瞬たりとも気が抜けない。  お互いに思惑を隠したまま腹を探り合うのは、かなり神経を使うし心身ともに疲弊する。  今の俺には、くるみの分かりやすさと無邪気な笑顔が唯一の癒しと言えた。
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