俺と彼女のすれ違い

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「そうだよ……」  今度はゆっくりと顔を近づけていくと、合わせるようにくるみもゆっくりと瞼を閉じた。その瞬間の顔があまりにも幸せそうで、見ている俺まで幸せな気分になれた。  決して多くは望まず、些細なことでも喜び、くるみは常に忠実で従順だった。  いつしか俺はくるみのすべてを手に入れたような気になっていた。  何もかも思い通りにできる。  心さえ自由に操れる。  何があっても、くるみの心が離れることはない。  愚かで傲慢な考えだが、この時の俺は多分、本気でそう思っていた。  くるみのことは、自分が一番よく分かっていると――。
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