俺と彼女のすれ違い

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 俺を困らせるようなことは絶対に言わないし、しない。  落ち着いてからきちんと説明すれば、くるみなら分かってくれる。  待てと言われなくても黙って待っているハチ公のようなくるみの態度が、俺をより一層思い上がらせ、自惚れに拍車をかけた。  俺はすっかり天狗になっていたんだと思う。  ――伸びきった鼻がへし折られることも知らずに。  それは2月13日のことだった。 「おい、氷川。ヤバいぞ。この間辞めた石倉だけどさぁ。アイツ、また手配ミスしてたみたいで、先方が納期はとっくに過ぎてるのに材料が届いてないってカンカンになってるんだよ。これで二回目だし、うちとはもう取引しないって。賠償請求してやるって、とにかく怒り狂ってる」  電話を終えた課長が、血相を変えて言ったのは出社してすぐのことだった。
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