俺の知らない彼女

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『今、木村商事の女帝(・・)と食事してるんだけどさ、女帝が氷川君を呼べってうるさいんだよ。疲れてるとこ悪いんだけど、帰国してから来れないか?女帝の機嫌を損ねると後が怖いからさ』  飛行機を降りた瞬間、矢島のスマホに課長から連絡があった。俺のスマホは知らない間に充電が切れていたらしい。  さすがに帰国した足で接待なんて何が何でも断りたかったが、木村商事の女帝こと木村部長は肩書こそ”部長”だが、創業者一族の人間で影の権力者と言われていた。父親である現社長も彼女には頭が上がらないという噂だ。   俺は木村商事の担当ではないのだが、担当者が出張中に代理で対応したことをきっかけにどういう訳か女帝に気に入られてしまい……厄介なことにそれ以来、事あるごとに呼びつけられるようになった。  自分の仕事だけでも手一杯なのに、担当外の会社の接待にまで顔を出していたら体がいくつあっても足りない。それでも、誘いを無下に断れないのは木村商事との取引が会社(うち)にとってかなり大きな割合を占めているからだ。
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