俺の知らない彼女

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 くるみは抵抗しているようだったが、椎名は俺をじっと見据えたままくるみを離さなかった。  どす黒い感情が沸々と腹の底から湧いてくるのが分かる。  今にも殴りかかりそうになるのを必死で抑える。ここで感情的になってしまったら負けだ。 「今日はお邪魔ですよ、ヒカワさん」  初めて会った時、俺が言った言葉を引用したらしい。奴はそう言うとニヤリと笑った。”開き直り”というのは、この男のためにある言葉だと思えた。 「や、止めて!変な冗談言わないでよ」  予想外の出来事だったのか、くるみも酷く焦っているようだった。言い方は悪いが、二人はどうやらグル(・・)ではないらしい。
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