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この距離でもガタガタ震えているのが分かる。あれからずっと待っていたのだろう。
チャラチャラして、非常識で厚顔無恥な男ではあるが、くるみのことを想う気持ちはいい加減なものではないのかもしれない。
椎名の存在に気がつくと、くるみは奴に向かって持っていたバッグを思い切り投げつけた。
別人のように声を荒らげ、くるみはありのままの感情を椎名にぶつけていた。
俺はくるみがあんなに怒ったところを一度も見たことがなかった。
アイツの前なら素直に自分を出せるのかと思うとショックだったが、考えてみれば俺もくるみの前で感情を露わにすることなど一度もなかった。
俺たちは最後の最後までお互いに本音をさらけ出して、大喧嘩することはなかった。
もっと醜く感情をぶつけ合うことができていたら、結末は違っていたのかもしれない。
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