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幸福の象徴のようなそれが憎らしく思えて、床に投げつけようと振りかぶった瞬間、突然くるみと出会った日のことが頭に浮かんだ。
『あ、あの……名刺……頂けませんか?』
真っ赤な顔でくるみが俺に笑いかける。
なぜだか、くるみの顔がチラついて箱を投げることはできなかった。俺は振り上げた手を下ろすと箱をテーブルに戻した。
鉛のように重い体をベッドに投げ出し、目を閉じる。
『イヤ……そんなのイヤ……。わたしは稜サンのことが好き。大好き。別れたくなんてない』
悲痛なくるみの涙声と泣き顔が、脳裏に焼き付いて離れない。
胸の奥がキリキリと痛み出す。
恋人との別れをこれほど辛く感じたのは初めてのことだった。
こんなに苦しいなら、いっそくるみのことを憎めたらよかった。
俺の中からくるみへの想いだけ消してしまえたらいいのに……。
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