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ただ、周りの人間が騒ぐほど暑いとは思わないので、暑さに強いのかもしれない。
空を仰ぐと痛いくらいに太陽が照り付ける。
『今度の土曜日、お仕事じゃなければ、一緒に花火を見に行きませんか?』
もう戻らない夏の日に思いを馳せる。
浴衣を着た美しくも艶めかしいくるみの姿が浮かぶ。
病院で再会した日から、くるみのことがやたらと気になってしまい、俺は逃げるように仕事に没頭した。
多忙な中に身を置けば、そのうちくるみのことなど忘れてしまうだろうと思った。
顔を合わせることがなければ向こうだって俺のことなど忘れ、椎名との交際に踏み切れるだろうと。
それが、くるみにとっての幸せなんだと俺は本気でそう思っていた。
あの日、思いがけない再会をするまでは……。
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