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シャワーを終え、浴室のドアを開けると芳しいコーヒーの香りが漂ってきた。
キッチンに姿がないので着替えているのかと思い、そっと部屋を覗き込むとくるみはクローゼットの取っ手を掴んだまま座り込んでいた。
「あれ?着替え入ってなかった?」
「あ、ううん。やっぱり着替えるほどでもないからいい」
明るい声だったがほんの少し鼻声のように感じた。気のせいかと思ったが、顔を上げたくるみの目は仄かに潤んでいる。
シャワーを浴びていた僅かな間に一体何があったのだろうか。
「もうコーヒーできてるよね」
何でもないフリをして立ち上がると、くるみは俺の前を通り過ぎキッチンへ行こうとしたので咄嗟にその腕を捕まえた。
「なんで泣いてるの?」
「泣いてないよ」
口では否定しても、頬に涙が伝っていた。
「なんで嘘つくの?」
指でそっと涙を拭うと、バリバリと空が裂けたような凄まじい雷の音が響き渡った。
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