雨夜の情事

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 唇で、舌で、指先で、ひとつひとつ丁寧に確かめていく。  柔らかい耳朶も首筋の匂いも、胸のふくらみも内腿の滑らかさも。  小さく喘ぐ声も蜜のように滴る愛液も花芯の熱も。  くるみのすべてを俺に刻み付け、俺のすべてもくるみに刻み付けたい。  記憶は薄れても、抱き合った感覚だけは憶えておきたい。  例え、これがすべてを忘れるための最後の情交だとしても――。  そっと彼女の首筋に舌を這わせ、吸い付いた。  今さら、どうしてこんなにも女々しいことをしてしまったのか、自分でも理解できない。  俺を忘れ、新しい一歩を踏み出そうとしている彼女にとって、ただの迷惑にしかならない痕。  彼女の幸せを願って身を引いたはずなのに、これでは彼女の幸せを奪うことにもなりかねない。  それでも……。  このまま黙って椎名にくるみを渡す気にはなれなかった。  
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