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今、腕の中で呼吸している彼女がこの上もなく愛おしく思える。
忘れたくない。
忘れてほしくない。
同じ時を重ね、互いを想い、愛し合ったことを。
涙ぐんだ瞳で、くるみは俺を見上げていた。切ない表情に心が揺れる。
どちらからともなく口づけた後、強く抱きしめた。
許されることならば、いつまでもこうしてくるみを抱いていたかった。
言葉を交わすこともなく、いつの間にかうとうととしてしまっていた。
眠るか眠らないかの朧げな意識の中でも、くるみがそっと離れていくのが分かった。
彼女は気配を殺し、乱れた服や髪を整えているようだった。
俺は、その時が近づいていることを知った。
「稜サン……ホントにごめんなさい。今までありがとうございました。サヨウナラ」
身支度を終えたくるみは、眠っている俺をしばらくじっと眺めた後、そっと囁いた。
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