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彼女は音を立てないように玄関まで歩いていき、静かにドアを開けた。
外はまだ大粒の雨が降っているようだった。
カチャンと玄関のドアがひっそりと閉まる音がして、俺は目を開けた。
その夜、初めてくるみが俺にサヨウナラと言った。
『これで最後だから……ちゃんと忘れるから……』
あの言葉は嘘ではなかったようだ。
彼女は俺ではなくアイツの元へ行くことを選んだ。
はじめから分っていたはずだったのに、俺はどこかで期待していたのかもしれない。
男なんてつくづくバカで単純な生き物だ。
いや、バカで単純なのは俺か。
一度寝たぐらいで、その気になるなんて……。
「痛っ……」
体を起こしてソファーの座面に手をつくと、何かが刺さったような感覚があった。
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