アイツの本気と俺の本心

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 あームカムカする。この怒りをどうしてくれよう。  接待の時は嫌でも飲まなければいけないので、仕事以外では酒を控えるようにしている。  気が立っている時はどうしたって深酒してしまうので飲まない方がいいのだが、今夜はどうも腹の虫が治まらず、飲まずにはいられない気分だった。  どこか、気兼ねせず静かに飲めるところはないだろうか。  脳内で適当な店を探しつつ、うろうろしてみるが、思い当たらない。  仕方ないから家で飲むか……諦めて酒屋へ向かおうとした時だった。 「あら、誰かと思ったら氷川さんじゃない」  突然女性に呼び止められた。声のする方に目をやると、バーのドアの前に顔見知りの女性が立っていた。 「ああ……」  彼女は以前、うちが接待でよく使う店のホステスをしていた。  俺とそう歳も変わらないはずだが、数年前に自分の店を持ち、小さなバーを始めた。
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