アイツの本気と俺の本心

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「いいの?急に早じまいしたりして」 「フフッ。ホントに真面目よね。いいのよ。私の店なんだから」  真面目というのは褒め言葉なんだろうが、この歳になると融通の利かない堅物と言われているような気がしてしまう。  俺は気の利いたジョークも言えないし、人を笑わせるような話術もない。  アイツとは正反対の人間だと思う。  自分で言うのもなんだが、俺は真面目なことぐらいしか取り柄のない退屈な男だ。 「氷川さんがそんな飲み方するの珍しい。よっぽど嫌なことがあったのね」   図星だったので何も言えず、俺は黙ってグラスを傾けた。  閉店の準備を終えると、彼女は隣に腰掛けた。  服装もシックになっていて、ホステスの頃のような華やかさはないが、妖艶な佇まいはそのままだった。 「私でよければ朝までお付き合いしますよ」  そっと俺の手に触れると、彼女は婀娜っぽく微笑んだ。
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