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先輩が話しかける度、くるみは今にも泣き出しそうに困った顔をした。
椎名に肩を抱かれ、裸同然の姿で会ったのはつい数日前のことなのだ。誰だって隠れたいほど気まずいに決まっている。
俺がくるみの立場なら、今一番会いたくないのは俺だろう。
「あ、あの!すみません。せっかくですけど、失礼します」
ほら見ろ。気まずくてくるみが出て行こうとしてるじゃないか。
どうするんだ、こんな雨の中。
体は反射的に追いかけそうになるが、脳がそれを止める。
「もう!早く彼女にこれ渡して来て下さい。使い終わったら捨ててくれたらいいからって」
この間、急な雨に降られてから鞄に折り畳み傘を入れるようにしていた。
俺はそれを先輩に渡し、くるみに持って行くように伝えた。
「え、なんで俺が?お前が持って行けばいいだろ?チャンスじゃないか」
何も知らない先輩は、俺を見てニヤリと笑った。
「チャンスなんかじゃない!早く行かなきゃ、彼女がずぶ濡れになるだろ!」
強い口調で言うと、先輩は一瞬ビクッとして傘を手にくるみの後を追った。先輩にとんでもない口をきいてしまったと気がついたのは、言った後だったのでもう遅い。
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