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「な、なんだよ!そんな怖い顔して!別に嗅いだわけじゃないよ。ふわっと漂ってきたんだよ、ふわっと。いいだろ、匂いぐらい。減るもんじゃなし」
ビクビクした様子で、竹中さんは必死に弁解した。
嗅いでいい訳ないだろうが。
下らないことを言っていたらタクシーが来たので、乗り込んで会社に戻った。
ワイパーを高速で動かしても間に合わないほどの豪雨がうるさいぐらいに窓を叩く。
竹中さんはずっと俺に喋りかけているようだったが、俺はほとんど聞かずに雨しか見えない窓の外を見ていた。
あの時、俺が追いかけて行ったらきっとくるみは逃げていた。
竹中さんに話しかけられている時から、くるみは俺のことばかり気にしてずっと帰りたそうにしていた。
もう俺は彼氏じゃないが、そのぐらいのことは見れば分かる。
彼女に傘を貸すためには、先輩に頼むしかなかった。
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