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もし今、付き合っていたとしても、くるみは俺の傘を受け取らなかったと思う。
くるみなら俺が濡れるよりも、自分が濡れることを選ぶ。
あの夜だって、彼女は自分が雨に濡れることも厭わずに、仮病を使った俺のために薬を買いに行ってくれた。
そういう女だ、くるみは。
……どうして手離してしまったんだろう。
こんな男を、自分を犠牲にしてまで愛してくれた女なんて他にはいないのに。
今までも、これから先だってきっともう……。
「って、聞いてんのかよ、氷川」
狭い車内には似つかわしくないほどの大きな声に、現実に引き戻された。
「あ、すみません。聞いてませんでした」
「なんだよーもう!お前、俺のことナメてるだろ?だいたいお前はな……」
先輩の小言を聞きながら、俺はまたくるみのことを考えていた。
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