アイツの本気と俺の本心

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「別に何も見えないです……」  恥ずかしそうに俯き、徐々に声のボリュームをしぼるようにくるみは答えた。 「店、そこでしょ?入らないの?」 「えっと……入ります」 「どうしたの?何か変だよ」  会社で会った時は先輩もいたし、突然のことだったので俺も動揺して気まずい空気だったが、今日は極力普通に接しようと決めていた。そうでなければ、くるみも余計に気まずくなる。 「じゃあ、どうぞ」  ドアを開けて促すと、くるみはおずおずと店に入って行った。 「いらっしゃいませ。2名様ですか?」  店に入ると、やたらにこやかに女性スタッフが声をかけてきた。 「いや、3名で予約してると思うんですけど。多分、椎名で」  俺が答えると、女性スタッフが予約を確認しに行った。 「少々お待ち下さい。えっと、椎名様と香山様と他一名様で確かにご予約頂いております。こちらへどうぞ」  冗談か本気か知らないが、アイツもタチが悪い。
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